研究概要 |
[目的]高度植物やラン藻など光合成生物の光合成の場となるチラコイド膜の主要糖脂質であるmonogalactosyldiacylglycerol(MGDG)の生合成については、その存在量の多さ(葉緑体脂質の50%)や光合成機能との関係から、多くの研究がなされている。古典的な代謝レベルでの実験から、シロイヌナズナやホウレンソウなどの植物では葉緑体の内側と外側で行われる2つのMGDG合成経路が存在すること、またキュウリなどの植物では葉緑体外の経路しか持たないことがわかっている。葉緑体内での経路は原核型経路、葉緑体外での経路は真核型経路と名付けられ、植物脂質代謝を特徴づける最も重要な経路として周知の事実となっている。このように、2つの異なるMGDGの合成経路の存在が広く知られながらも、この2つの経路がどのような違いに基づいているのか、あるいはなぜこのように植物によって異なる経路が存在するのか、さらにそれらの経路がどのように制御されているかなどの点は全く分かっていなかった。本研究では、これら2つの葉緑体主要脂質合成経路に関する古典的知見を申請者らの得たMGDG合成酵素遺伝子ファミリーを鍵として、生化学的、分子生物学的、細胞生物学的な手法から再検討し、植物脂質代謝を特徴づけるこれら2つのMGDG合成経路の違いやその生物学的意義、その制御機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 [結果]前年度の研究成果からシロイヌナズナから単離した3種のMGDG合成酵素遺伝子MGDA,MGDB MGDCのうちMGDAは全ての組織で高い発現を示したのに対して、MGDBについては花芽で、MGDCについては子葉および根でそれぞれ最も高い発現を示すことが分かった。また、3つの酵素の基質特異性を調べたところ、MGDAがdiacylglycerolに対する基質特異性が低いのに対して、MGDBおよびMGDCでは真核型経路で合成される真核型脂質に特異性が高いことがわかった。また、MGDCがシロイヌナズナの発芽初期に高い発現を示し、生育日数に応じて発現が減少することから、生育時期によりMGDGの脂肪酸組成に違いがあるのではないかと考え分析したところ、生育に伴い真核型脂質の割合が減少し、原核型脂質の割合が増加する傾向を示した。これらの結果を昨年度の結果と統合して考えると、主に葉緑体形成時の糖脂質合成についてはMGDAが機能しており、発芽初期や花、根ではMGDB,_-MGDCが、主に真核型脂質合成経路でMGDG合成に関与していると考えられる。
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