研究概要 |
植物の環境ストレス耐性,すなわち生育にとって不利な環境条件(環境ストレス)による代謝の変動を緩和する能力,は「発芽した場所から移動せずに生育する」という植物の生存様式を支える重要な生理機能である。強光,紫外線,除草剤,乾燥などの環境ストレスの比較的初期の段階で細胞での活性酸素生成が増大するが,環境ストレス下での細胞の生死がどのような内的・外的因子によって決定されるのかは詳しく究明されていない。本研究では,主として乾燥ストレス・塩ストレス(水分ストレス)による植物の傷害と耐性の機構を明らかにすることを目的とした。レタスの根への水分ストレスが葉の活性酸素生成を誘導することを生葉の電子スピン共鳴測定で実証し,水分ストレス初期の葉の酸化レベル増大と同じタイミングで,葉緑体のスーパーオキシドジスムターゼが特異的に失活することを明らかにした。さらに強い水分ストレスでは,葉のしおれとともにカタラーゼが失活することも見いだした。水分ストレス下での葉の酸化的損傷は,これらの活性酸素消去酵素の特異的失活が引き金となっていることが示唆された。また,酸化的ストレスを誘導するメチルビオローゲン(MV)によるホウレンソウ葉の傷害の初期過程を詳しく解析し,MVの光還元がモノデヒドロアスコルビン酸の光還元と競合し,葉緑体内のアスコルビン酸濃度を低下させるため葉緑体APXが速やかに失活すること,この失活によって葉緑体からのH_2O_2拡散が促進され,細胞成分の酸化的損傷が進行することを明らかにした。このように,様々な環境ストレス下で植物細胞の酸化的ストレス防御を担う抗酸化酵素が,初期ターゲットとして,環境ストレスの種類に特異的に失活するために細胞の酸化的損傷が進行することを明らかにした。
|