弱光下でも常時ゼアキサンチンを蓄積するWE15-54は、同様の表現型が報告されているnpq2のアレルであった。WE15-54/npq2は、弱光下でも光エネルギーを熱として散逸する。しかし強光時や二酸化炭素濃度が減少した際誘導される最大の熱散逸量が、野生株より低いものであった。このため二酸化炭素フリー大気中でも過剰エネルギーを充分散逸できず、電子伝達系が還元側に傾くことになった。この事実は、二酸化炭素濃度が減少するストレスに対し、光化学系IIでの過剰光エネルギーの散逸が非常に重要な機能を果たしていることを示している。またこの機能には、正常な光強度によるカロテノイドの転換(キサントフィルサイクル)が必要で、常時ゼアキサンチンを蓄積することは植物にとって不利であることが示唆された。 一方nrd5はWE15-54と異なり、強光下で過剰光エネルギーを充分散逸できない変異株として得られている。nrd5は光化学系Iの電子受容側に異常があり、強光下でも光化学系I反応中心(P700)が酸化されない。この表現型は、低濃度のパラコート(人工電子受容体)の添加により相補される。nrd5の弱光下での電子伝達を大気、二酸化炭素フリー大気および窒素中で調べた。この条件では、大気中でnrd5の電子伝達には異常が見られない。しかし、二酸化炭素フリー大気および窒素中では、著しい電子伝達と光化学系IIでの過剰光エネルギーの散逸量の低下が見られた。以上の結果から、nrd5では、光化学系Iから補助的経路への電子伝達が影響を受けており、この経路は二酸化炭素フリー大気中での電子伝達系の過剰還元を回避し、光化学系IIでの過剰光エネルギーの散逸を誘導するのに機能していると考えられる。 nrd5は染色体2番の北側にマップされ、新規の葉緑体低分子タンパク質をコードする遺伝子に変異が見つかった。現在野生型遺伝子導入による相補実験を行っている。
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