シダ植物以下の下等植物では、直線偏光下で作用二色性を示すことを特徴とする膜配向型フィトクロムに依存する光反応が存在する。これらは光屈性反応、葉緑体光定位運動であるが、本研究では、これらを支配する下等植物に固有な膜配向型フィトクロム分子をホウライシダおよびコケPhyscomitrella patensを用いて明らかにし、さらにその膜配向メカニズムに関する知見を得ることを目的とする。本年度は以下の結果を得た。 1)シダ類の多くの種では、原糸体がフィトクロム依存光屈性反応を示すと同時にフィトクロム依存葉緑体光定位運動を示す。赤色光に光屈性を示さない種では赤色光誘導葉緑体光定位運動も見られない。また、ホウライシダの赤色光誘導光屈性を欠く変異体では、赤色光による葉緑体光定位運動をも欠失している。こらの事実は赤色光による光屈性と葉緑体定位運動が同一のフィトクロム分子に調節されることを示唆している。赤色光誘導光屈性はシダだけでなく、コケ類の原糸体細胞でも知られているが、コケでは赤色光による葉緑体定位運動はまったく報告されていない。そこで、P.patensaを用い、赤色光の細胞部分照射により葉緑体の光定位運動を調べた。その結果、照射部位に葉緑体が集まる弱光運動、照射部位を逃避する強光反応がともに見られ、フィトクロム依存反応の存在が初めて明らかになった。コケ類においても同一のフィトクロム分子が両反応を調節していることを示唆している。 2)形質転換が容易なP.patensaに膜配向型フィトクロムの候補としてホウライシダから得られているphy3遺伝子を導入し、過剰発現させてその効果を調べる試みを行った。PEG法によりプロトプラストに遺伝子導入を行った。phy3が安定に導入された形質転換体が1系統得られたが、現在のところ光屈性、葉緑体光定位運動等の光反応に変化は見られていない。
|