灰色藻Cyanophora paradoxaは、シアネルと呼ばれる光合成器官をその細胞内に持っている。一般に真核生物の光合成器官は葉緑体と呼ばれるのに対し、C.paradoxaの場合はその性質が独立生活を営む原核生物であるラン藻に極めてよく似ている。例えば補助色素としてフィコシアニンを使い、ストロマ中にカルボキシゾームに似た構造を持ち、ない包膜の外側に薄いながらもために、特別にシアネルと呼ばれている。葉緑体は、かつて独立生活を営んでいたラン藻が細胞内に共生した結果成立したものと考えられている。そのため、このラン藻の性質をよく残したシアネルは、葉緑体の起源を考える上できわめて興味のある研究対象である。本研究では、特に葉緑体成立に重要な役割を果たしたであろうと思われる包膜の性質を調べるため、まずシアネルから包膜を単離する方法について検討した。 まず細胞を低張処理により無傷シアネルを集め、これをリゾチーム処理してペプチドグリカン層を消化した。この縣濁液をフレンチプレスに通してシアネルを破壊し、破壊されなかった無傷シアネルを遠心で除いた後、密度勾配浮上遠心法により膜成分を分離した。すると緑色のチラコイド膜の他に、非常にわずかではあるが黄色い画分が2つ分離してきた。これらの画分の浮上密度は、それぞれ1.11および1.03g/cm^3であった。この重い方の画分は、ラン藻の細胞膜や葉緑体の内包膜の比重とよく一致していた。現在これら黄色の画分がシアネルの包膜であることを確認するため、タンパク質組成、色素組成等の性質を調べている。
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