植物に吸収された太陽光エネルギーは光化学反応中心に伝達され、そこで化学エネルギーに変換される。高等植物の光化学系I反応中心は、80kDaの大きさを持つ2つのポリペプチド(psaA/B)から構成されている。その中心部に6分子の反応中心クロロフィル、即ち、初期電子供与体(P700)、初期電子受容体(Ao)、およびその間での電荷分離を仲介する補助色素(A)(各2分子ずつ)が結合している。本年度は、1)光化学系I標品からアンテナ色素の大部分を抽出し、反応中心クロロフィルを含めて約10分子のChl aのみを結合した粒子を調製し、2)そのアルカリ処理によって反応中心クロロフィル(P700、A、Ao)の一部を特異的に変性させる方法を確立した。この変性粒子の分光学的解析を行うことにより、P700の還元型/酸化型の吸収スペクトル、および励起エネルギーのquencherとしての性質に関する興味ある知見を得た。また、3)0.1ピコ秒の精度でP700を直接励起したときの電荷分離過程を、AおよびAoの還元型の生成速度を測定することにより解析した。その結果、P700とAの間の電荷分離によると思われる0.5ピコ秒程度でおこる電荷分離が初めて観測された。4)これらの結果に基づき、次年度以降、反応中心クロロフィルの他の色素への特異的な置換が可能になった。また、その結果得られる人工光合成系の電荷分離速度を測定し、相互の違いを比較することも可能になった。
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