本研究は、重要なポイントで引っかかり、上手く進行していない。後1年という残された時間でどこまで解明できるか、全力を尽くすべく、現在、実験を考えている。上手く行かない肝腎な点は、テイラピアの生殖巣へ入って行く神経節をサケ・カルシトニンの抗体で染色しても、予想に反して神経節の細胞は染色されなかったと言う点である。用いた抗体は、サケばかりでなくカルシトニンならば他の種のカルシトニンでも染める力はあることがわかっている。したがって、染色されなかった理由は、テイラピアの神経節がカルシトニンを作っていなかったことになる。あるいは、作っていても、その時は作っていなかった可能性もある。用いた個体は、雌雄とも成熟しておらず、成熟したときだけ、つくっていることも考えられるからである。さらに作っていても微量であったので免疫組織化学では検出できなかった可能性もある。 テイラピアにおいてin situ hybridizationによってカルシトニンのmRNAを検出するのが近道と考えるが、他の魚種、例えば、すでに成熟した精巣からカルシトニンの抗体に反応する神経線維を検出しているキンギョでもう一度、確かめる手もあるかもしれない。但し、キンギョでは生殖巣へ入って行く、神経節がどこにあるのかがわかっていない。それは染色された神経線維を追えばわかるかもしれないが。また、今回、テイラピアの神経節は、それほどコンパクトにまとまった組織ではなく、比較的ルーズで、同じ種類の神経細胞の小塊が神経節のそばにあったりすることもわかった。従って、手術をするときでもかなりの注意を払って神経節の全部を摘出する必要があると感じた。今後は、残された時間を有効に使って魚の生殖巣に存在するカルシトニンを産生する神経の生理的意味の解明を目指す。
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