研究概要 |
本研究は、ラットの子宮の腺細胞で骨硬化ホルモンであるカルシトニンが発現しているという米国の研究者の報告に刺激され、試みにキンギョの精巣・卵巣をホモジェナイズしてRT-PCR法でカルシトニンcDNAが増幅されるか否かを行った所、まさしくそれが増幅され、さらにキンギョの精巣でカルシトニン免疫陽性神経線維が見っかつた所から始まった。従って、魚の生殖巣の神経がカルシトニンを発現させていると考えられた。そこで遺伝的に性が解明されるティラピア用いて生殖巣へ軸索を伸ばしている神経節に免疫染色を行ない、神経軸索が、例えば生殖巣の筋肉にアクセスしているのか、あるいはステロイド産生細胞へアクセスしているのか、神経節を切除したらどうなるか等を見るべく計画した。しかしながら、ティラピアの神経節に免疫陽性反応はなく、しかも神経節は分節していることがあり、全摘出は困難であることもわかった。従って、当初の計画は頓挫してしまった。しかしながら、生殖巣内のカルシトニンの発現にこだわり、新たなる試みとして、サケの未受精卵をホモジェナイズしてRT-PCR法によるカルシトニンcDNAの増幅を試みると、明らかに鰓後腺がつくるタイプと同じカルシトニンcDNAが増幅された。従って、残りの時間を全力を挙げて卵の中でカルシトニンmRNAがどこにあるのか、発生に伴ってどうなるのかを調べた。その結果、卵の動物極側に多く存在すること、卵膜にも卵黄にも存在し、発生中も検出できることがわかった。ペプチドホルモンのmRNAが未受精卵にすでに含まれているという発見は脊椎動物では初めてであり、日本動物学会第70回大会にて報告した(Zool. Sci.,17,suppl.6p)。結局、タイトルと研究内容が異なる結果となり、今回は教訓となったが、卵内のカルシトニンmRNAの発見は脊椎動物全体に関わる重要なことかもしれず、今後も研究を続けて行きたいと考えている。
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