単細胞緑藻Botryococcus brauniiは、乾燥重量の30〜60%もの多量の炭化水素を細胞壁表面に分泌する。この炭化水素生成機構を細胞学的観点から解析した。ガスクロマトグラフィーとNMRで解析した結果、本実験に用いたB.brauniiの生成する炭化水素は、炭素数29または31で、二重結合を二個有する直鎖不飽和型であった。アミノウラシルを用いてB.brauniiを同調培養し、^<14>C-酢酸を用いたオートラジオグラフィー法で解析した結果、炭化水素生成は細胞分裂直後に起こることが判った。電子顕微鏡の急速凍結置換法で細胞周期を通したゴルジ体とtrans-Golgi-networkの構造変化を調べた結果、炭化水素生成は細胞分裂後のプロトプラスト表面で細胞壁形成に先だって起ること、この時期にはtrans-Golgi-networkが発達し、大型の小胞を特異的に形成することが明らかになった。^<14>C-酢酸を用いた電子顕微鏡オートラジオグラフィーでも、炭化水素の前駆体がtrans-Golgi-networkを経由して細胞表面に運ばれる可能性を示唆できた。そこで、炭化水素前駆体の細胞内輸送経路を実証する目的で、炭化水素のポリクロナール抗体の作製を試みたが、現段階では成功していない。炭化水素をバクテリアにコートして免疫するなど、今後も工夫を続ける。炭化水素生成の生化学的な解析には、高率に同調した細胞質分裂直後の細胞群が必要であった。しかし、B.brauniiの同調培養は経験と技術を要し、容易でなかったため、interphaseの細胞に炭化水素生成を誘導する系の開発を始めた。現時点で、interphaseの細胞をスフェロプラスト処理し、処理前に比べて10〜15倍量の炭化水素生成を比較的容易に誘導できるようになった。
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