縫線核と生殖機能に関しては、排卵と母性行動について結果が得られた。雌ラットの発情前期の午前中に背側縫線核の破壊を行った後、二日にわたり排卵数、血中LH量の測定をした。さらに、セロトニン受容体の作動剤や、拮抗剤の投与を破壊と同時に行って影響をみた。その結果、正常な自然排卵に背側縫線核の働きが欠かせないこと、5HT2A2C受容体が関与していることが明らかになった。出産直後のラットに背側縫線核か、正中縫線核の高周波破壊または切断を行い、単独飼育1週間後にリトリービングとリッキングを調べた。その結果、背側縫線核はそれらの母性行動には直接関与しておらず、正中縫線核が重要であることが明らかになった。さらに、正中縫線核の腹側部出力神経線維がその機能に関与していることも示唆された。 セロトニン神経系以外に、プロリルエンドペプチダーゼの阻害剤投与により雌ラットのロードーシス行動が抑制されることから、雌性行動の発現にプロリンを含むペプチド神経伝達物質が抑制的に働いていることや、視床下部の前交連後端背側部入力が排卵のタイミングに影響があることなどが、結果として得られている。 生殖機能の性差、性分化に関しては、雄ラットにも雌と同様に、プロゲステロンによるエストロゲンの発情誘起作用阻害が見られること、すなわち、プロゲステロンの脳における雌性行動の抑制作用に雌雄差が無いことが示され、雌の視床下部腹内側核に雄型性行動発現の弱い抑制力があることも証明された。特に、順行性と逆行性神経トレーサによる免疫神経組織化学により、雄ラットにおけるロードーシス抑制力を形成す神経細胞が、中隔の中間部に存在し、雌型性行動の発現を統御している中脳中心灰白質に線維投射をしていることが明らかにされたことは、脳の細胞レベルの性分化解析を可能にしたものとして評価できる。
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