アコヤガイの貝殻は炭酸カルシウムの結晶と微量の有機成分から構成されている。有機成分としてはタンパク質が主なものであり、タンパク質によって炭酸カルシウムの結晶形成が制御されることが報告されている。貝類の炭酸カルシウム結晶としては真珠層のアラレ石と稜中層の方解石があり、それぞれ特異的なタンパク質によって誘導されると推察されている。真珠層タンパク質としてはすでにNacreinタンパク質の遺伝子に関して報告しているが、本研究では真珠層に存在する新しいタンパク質として新たにPearlinを単離し、そのcDNAをクローニングすることに成功した。cDNAから予想されるPearlinタンパグ質は131アミノ酸残基よりなり分子量は16000であった。既知のタンパク質との相同性はみられなかったが、アスパラギン酸が多く含まれており、酸性タンパク質として炭酸カルシウムの結晶形成に関与していると推察される。このタンパク質を基盤として、飽和炭酸カルシウム中で結晶形成を誘導し、そのX線回折を行ったところ、アラレ石特有のピークが観察された。このことから、Pearlinタンパク質はアコヤガイ真珠層においてアラレ石結晶の形成を誘導していると考えられる。
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