研究概要 |
エクジステロイド脱リン酸化酵素は,エクジステロイド(脱皮ホルモン)のリン酸抱合体を基質として遊離型エクジステロイドの生成を触媒する酵素である.この酵素は,昆虫体内のエクジステロイドホメオスタシス(すなわち胚発生や脱皮と変態の調節)に重要な役割を果たしている.しかし,この酵素の性状については全く解明されていない.そこで,本研究は,エクジステロイド脱リン酸化酵素を精製し,基質特異性や反応速度など酵素の性状を明らかにすること,およびこの酵素の遺伝子をクローニングすることを目的として行われた.本酵素は,カイコの非休眠卵を材料としてイオン交換,ゲルろ過クロマトグラフィーなどにより,電気泳動的に単一のバンドとして精製できた.本酵素の細胞内分布や基質特異性,各種インヒビターによる阻害実験などから,新規のホスファターゼであることが明らかとなった.現在,精製された酵素のアミノ酸配列をもとにしてRT-PCR法によりcDNAのクローニングと塩基配列の解析を行っている.エクジステロイドリン酸抱合体は,卵巣一卵系では卵黄蛋白質の一種ビテリンと複合体を形成しており,エクジステロイド脱リン酸化酵素の基質となるためには,あらかじめビテリンが蛋白質分解酵素によって分解される必要のある事も明らかとなった.これらの知見は,昆虫体内でのエクジステロイドボメオスタシスを理解するために重要な手がかりを与えるものである.
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