本研究では、脳の発生や記憶などに伴うニューロンの構造・機能変化において小胞輸送・リサイクリング系が果たす役割を明らかにするため、神経細胞の中でもその極性構造が極めて明瞭で扱いも容易な視細胞をモデルとし、細胞内小胞輸送マップを作成することを目標とした。昨年度の研究により、神経細胞における小胞輸送系の構築や働きを調べる上で、樹状突起方向への輸送阻害にはRAB2の、軸策方向への輸送阻害にはRAB3およびRAB5の、また、シナプス小胞のリサイクリングの阻害にはSHIBIREの変異体が有用であることを示した。今年度は、これらの変異蛋白質を有効に作用させ、より効果的な輸送阻害を引き起こすために、マーカー蛋白質と変異Rab蛋白質を時差的に発現させることができる系を開発した。また、神経軸索・終末方向への輸送をリアルタイムでトレースできるよう、輸送マーカーとしてGFP標識蛋白質を発現するよう系を設計した。この系はTet-onシステムを用い、ハエに対する経口的なテトラサイクリン投与により、速やかにGFP標識したシナプトフィジンを発現させることを可能にする。従って、各種の変異Rab蛋白質等を熱ショックプロモーターなどにより予め発現させておいたハエに対してTetを投与することにより、標識蛋白質の効果的な輸送祖阻害が可能になる。現在、GFP標識したシナプトフィジンの発現を、Tetにより誘導することに成功しており、更にその発現を、視細胞に限定することにも成功している(後者の詳細は省略)。今後、このハエにおける標識蛋白質の分布をより詳細に解析するとともに、各種Rab変異体との掛合わせにより、神経終末方向への輸送過程とその制御を光顕(リアルタイム)、電顕レベルで明らかにする予定である。
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