コオロギの交尾行動、とくに雌雄交接器の結合後、精包の放出と受け渡しに関わる生殖器の形態と機能および神経支配を調べ、さらに実際の交尾行動時における運動ニューロンの細胞外記録をおこなった。 精包放出に関わる背側嚢は4つの筋肉に覆われ、精包放出の際に大きく変形することによって精包を押し出すが、支配ニューロンはただ1つ(DPMN)であり、精包放出時にのみ集中発火した。その後約6秒に1回の周期的バースト発火をするが、この周期的バースト発火は侵害刺激によって中断する一方で、末梢からのフィードバックの遮断による影響は見られなかった。したがって、DPMNは脳から抑制の影響を受けるが、バーストのパターンは最終腹部神経節内で作られているといえる。次に精包準備行動であるが、それに先立ってDPMNのバースト頻度が上昇し、精包準備行動後には活動を停止する。一方、膜状構造をした外部生殖器のうち、腹葉は、精包放出前に精包の球状部分を左右から包み込んでいるが、精包受け渡しの際には体液の流入によって左右に大きく開き、精包を雌の産室に受け渡す手助けをする。また、精包準備行動の際には流れ出てくる精包材料を受け止めるような形で突出し、精包の球状部分の鋳型となる。この腹葉は2つのニューロンに支配されており、それぞれ筋肉の弛緩と緊張を司ると考えられる。もう1つの膜状構造の外部生殖器である正中嚢は、精包受け渡しの際に膨張して精包を押し上げ、その後は空になった背側嚢の内側をうめるように収まる。ほぼ、左右に約5秒に1回の頻度で周期運動しているが、これに同期して2〜3個のニューロンから構成されるスパイク群が左右交互に発火した。 以上のことから雄コオロギの生殖行動のうち、精包の放出と精包の形成は、中枢プログラム方式で行われており、最終腹部神経節内のパターン発生器に支配されていることが示唆された。
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