中枢神経系のいろいろな領域において、比較的少数のニューロンが集まってモジュール構造を作る。その中でも電気的カップリングによって組織化されたものは最もシンプルなタイプで、しばしば同期的活動が観察される。カイコガの食道下神経節ある5対の神経分泌細胞(PBAN分泌細胞)群は同期的発火を繰り返すが、本研究ではこの細胞群を対象にして同期的発火パターンの解析を行い、自発活動時の特定細胞の発火確率、発火順位および上位中枢からの信号による駆動・調節機構を調べた。 PBAN分泌細胞群は脳にある活性化機構(上位中枢)から駆動信号を受け、その信号によっていくつの細胞に発火が開始され、それが広がっていくと考えられる。麻酔あるいは低温にして、上位中枢からの駆動信号を減じた時に、同期発火パターンがどのように変わるか調べた。無麻酔の正常状態下では、片側5個の神経細胞群は全細胞が同期的発火に参加している場合が最も多いパターンを示すが、発火頻度が無麻酔時の1/10以下になるように炭酸ガス麻酔をすると、ちょうど5個の細胞が参加する同期的発火が除かれたような分布パターンになった。室温を26℃から15℃に下げて発火頻度を減じた時も同様なパターンになる例が多数観察された。麻酔薬で、ギャップ結合の阻害剤として知られているハロセン麻酔下では、1、2個の細胞のみが発火する場合が大多数を占めていた。以上の結果から(1)上位中枢からの信号は5個の細胞のうち、1-2個の細胞の発火をトリガーする、(2)1個の細胞に発火が開始されると周りの3個までの細胞に(ギャップ結合よって)発火が広がる、(3)2個以上の細胞に発火がトリガーされなければ全細胞へ発火は広がらないことが示唆された。
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