カイコガの脳にはインスリン様ペプチドホルモン(ボンビキシン)を分泌する4対の神経分泌細胞の発火活動パターンを解析した。各ボンビキシン分泌細胞は活動周期が数十分のウルトラディアンオシレーターであるが、周期が異るため明確なリズム同期などは見られない。しかし、各細胞間には偶然以上の確率でスパイク同期が見られ、4対のボンビキシン分泌細胞群は弱い相互作用によって組織化された「多振動体」(weakly coupled multioscillator system)を形成していることが分った。したがって、各細胞の活動は自由振動ではなく、協調的振動(concerted oscillation)になる。 各細胞の活動リズムの自己相関および相互相関から以下のことが示唆された。(1)カップリングの強さはみな同じではなく、1個の細胞は反対側のおよそ2個から3個の細胞と比較的強くカップリングしている。(2)カップリングが比較的強い細胞間の平均周期はほぼ同じである。(3)たくさんの細胞とカップリングし、相関係数も大きい細胞の周期は長く、周期の安定性が悪い。(4)カップリングする相手細胞が少なく、相関係数も低い細胞の周期は比較的安定している。脊椎動物のいろいろなホルモンの分泌にはウルトラディンリズムのゆらぎが見られるが、ボンビキシン分泌細胞系はウルトラディアンリズムの発生・調節機構を解析する上で良いモデルになると考えられる。
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