変温脊椎動物の皮膚色素細胞は、一般には、眼からの情報に基づく神経・内分泌系によって、その活動が調節されている。しかし、色素細胞の中には、視覚系を介さずに、細胞が直接、光刺激に応答(色素顆粒の細胞内移動)するものがある。これらの光応答性色素細胞は視覚系とは異なる独自な光反応系と考えられてきたが、その実体はいまだ不明である。我々は光応答性黒色素胞を含むアフリカツメガエル幼生尾ヒレで、2種のオプシン(ロドプシンとメラノプシン)の発現を確認した。2種のオプシンはそれぞれ、色素顆粒の凝集と拡散という逆方向の色素顆粒移動に関わっており、従って、細胞内シグナル伝達系も複数機能している可能性がある。Gタンパク質として、幼生尾ヒレでは、Gi、Gqに加え、光シグナル伝達に重要なGtの発現が確認された。これらのGタンパク質と2種のオプシンとの関連性、また、そのエフェクター分子の実体も、まだ明らかではない。今後、光刺激によって発現が活性化されるタンパク質分子、特に、光応答系の最終反応である色素顆粒移動に関与すると考えられる細胞骨格系のタンパク質に着目し、研究を進める予定である。一方、哺乳類の色素細胞(メラノサイト)の可視光に対する細胞応答はまだ不明である。しかし、マウスの培養メラノサイト(melan a2)、ヒトの培養メラノサイト(NHEM)、およびマウス(C57BL/6N)の皮膚組織において、桿体のオプシンと一致するオプシンmRNAの発現が確認された。さらに、melan a2細胞では、Gtαの発現も認められた。哺乳類色素細胞における光応答の実体と、その生物学的意味の解明は、今後の課題である。変温脊椎動物や哺乳類の色素細胞に、光受容分子とこれと共役するGtタンパク質が存在することは、動物の、皮膚の色素細胞が、光受容システムとして機能している可能性、つまり皮膚で光を感知できる可能性を示していると思われる。
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