(1)ペプチド性シグナル分子の大規模検索:このペプチドプロジェクトにより、i)ペプチド分子は神経情報伝達の働きのみならず形態形成や細胞分化のような発生生物学的な活性を含んだものが多数ある、ii)ペプチド分子は神経細胞に局在する神経ペプチドのみならず、上皮筋細胞に局在する上皮ペプチドもたくさんある、等の考えが明確になった。 (2)我々の得た神経ペプチドの抗体を用いて、ヒドラの神経系の化学解剖学を行った。感覚細胞はペプチド発現に関して各部位では均一で、神経節細胞については対照的に様々に異なったペプチドを発現する雑多な集団であることが判明した。体の各部の各神経部分集合の分布と重なり具合を示す詳細な定性的な科学解剖図ができた。更にこれらの各集団の細胞数を示す定量的な解剖図も作成でき、更にこのような抗体で可視化される神経集団の全神経細胞に占める大きさも評価した。これらは、神経回路網形成の研究にとって重要で必須のデーダになると思われる。 (3)神経回路網形成の分子機構:ヒドラ・ペプチド・プロジェクトにより、ヒドラの神経細胞の分化を抑制するペプチドファミリー(PW family)と神経細胞の分化を促進するペプチドHym355(FPQSFLPRGamide)が同定された。また、抗体作製により、PW familyは上皮細胞に局在し、Hym355は神経細胞に局在する事が判明した。神経ペプチドHym355については、2000年にその結果がDevelopmentに掲載・発行された。現在上皮ペプチドLPW familyについて論文を準備中である。 (4)ペプチド・プロジェクトの活性検定系に神経細胞培養系を使用するための研究:ヒドラの組織を単細胞にまで解離して、培養系で神経細胞の神経突起の伸張と神経ペプチドの発現を観察できる系を確立し、この系を用いて、頭部特異的な神経細胞のマーカーである神経ペプチドRFamideの発現に対する効果を調べ、部位特異的な神経細胞の分化に関連した制御分子を同定することを目指している。本年度ようやく神経細胞の細胞培養系について、短期間(2days)については、90%の生存率、健康な神経細胞の維持の系をほぼ確立できた。
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