研究概要 |
コラーゲン性の結合組織がその力学的性質を可逆的に変化させる結合組織キャッチは,棘皮動物門全体にわたってみられる現象であるが,その機構はいまだに解明されていない.力学的性質の変化は,コラーゲン繊維と繊維間基質の相互作用に由来する粘弾性変化に基くとする説が有力であるが,最近,ウニの棘基部にあるcatch apparatus(CA)のキャッチ現象は,少数の筋細胞の活動によって説明できるとする仮説が提出された.本研究は,CAのキャッチにおける筋収縮の関与を従来とは異なる角度から検討すること,ならびに,筋細胞を含まない結合組織とされるウニ棘中央靭帯の形態と機能を詳細に調べることによって結合組織キャッチの機構解明に寄与することを目的とした. まず,棘基部のCAのキャッチに筋収縮が関与しているという仮説を検証するため,CAの力学的性質に対するミオシン阻害剤2,3-butanedione-2-monoxime(BDM)の効果を検討した.その結果,BDMがCAのキャッチを完全に阻害することが明らかになった.さらに,表面活性剤を用いて細胞要素の膜を可透化したCAはATPに反応してキャッチ状態を示すことがわかった.これらの結果は,キャッチにおける筋細胞の関与を強く示唆するものである.つぎに,ガンガゼの中央靭帯(CL)の構造ならびに力学的・生理学的性質について再検討を試みた.まず,CLの細胞要素について電子顕微鏡による予備的観察を試みたが,従来の報告と同様に,明瞭な筋細胞は見いだせなかった.しかし,CAのキャッチを引き起こすアセチルコリンや,キャッチの弛緩を引き起こすアドレナリンは.CLに対しても同様の効果を持つこと,さらにBDMがCLの伸展性を増大させることが明かになった.これらの結果は,中央靭帯は筋細胞を含まず,(したがって)キャッチを示さないとする一部の主張とは一致しない.
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