研究概要 |
毛顎動物の初期発生様式を理解するために、カエデイソヤムシの4細胞期胚の各割球の発生運命を調べた。固定した胚をトルイジンブルーで染色することにより生殖質の位置をみることができるが、生体の胚では各割球を識別することが困難である。そこでランダムに1つの割球を選び蛍光色素を注入し、孵化直後の幼体における色素分布パターンを調べた。その結果、標識された部位は次の4つのパターンであった。1)背側上皮、背側体壁筋中央部、および腸(Dパターン)。2)始原生殖細胞、腹側体壁筋中央部、および腸間膜(Vパターン)。3)腹側上皮左側、腹神経節左側、および背腹側左体壁筋側方部(Lパターン)。4)腹側上皮右側、腹神経節右側、および背腹側右体壁筋側方部(Rパターン)。このことから、4細胞期胚の割球はD,V,L,およびRと呼ぶことができる。ここで、Vは生殖質を含む割球とみなされる。2細胞期胚の割球に色素を注入した結果では、DL,DR,VL,およびVRパターンの4つを生じ、VLパターンはVRパターンよりも多く見られた。これらは相補的な組み合わせ(DL/VRまたはDR/VL)になることが予想されている(Shimotori and Goto,1999)。4細胞胚における姉妹割球を明らかにするために第2卵割期胚の固定試料で分裂装置の配向を生殖質を含む割球Vを基準に調べた。その結果、胚を植物極側から見るとほとんどの場合で割球Vは左側の細胞と姉妹割球を形成していたことから、2細胞期胚は割球DRと割球VLの組み合わせから成ることが予想される。また、主に背側部分の形成に関与する割球Dをらせん卵割におけるD細胞と相同とみなした場合、これと姉妹割球の割球RはC細胞、VがB細胞、Vと姉妹割球のLがA細胞となる。これらの細胞の配置を動物極側からみると、A,B,C,Dは右回りとなる。この結果は、ヤムシの4細胞期胚は典型的ならせん卵割と類似していることを示唆するものである。
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