毛顎動物の初期発生様式を理解するために、昨年度はカエデイソヤムシの4細胞期胚の各割球の発生運命を明らかにし、初期卵割パターンが「らせん型」であることを示した。本年度はさらに8細胞期胚の各割球の発生運命を明らかにするために、1つの割球にトレーサー色素を注入し、色素分布パターンを同一胚の後期嚢胚期と孵化後の幼体で調べた。これらの色素分布パターンとを照らし合わせることで、胚葉形成過程と幼体の各組織の形成の関係を探った。孵化直後の幼体における色素分布パターンは8つあり、これらは4細胞期胚で得られた4つの色素分布パターンのサブセットとなるものであったことから、4細胞期胚の発生運命を支持する。8つのパターンの中で、後期嚢胚期の段階で原腸壁の領域が標識されたパターンでは孵化後に体壁筋が標識され、中胚葉性のひだと原腸壁の一部が標識されたパターンでは体壁筋、腸間膜、および腸管が標識された。これらのことは、体壁筋のほとんどの部分は原腸壁に由来することを示すとともに、中胚葉形成様式に関する古典的な観察結果を支持するものであった。8細胞期胚の割球は、4細胞期の割球(a、b、c、d)が動物極側と植物極側に分裂して生じることから、各割球をaa、av、ba、bv、ca、cv、da、dvと名付けた。植物極側から陥入は起こると考えられるため、4細胞期胚で右側や左側の領域を生じる割球であるa割球やc割球の動物極側の娘割球(aa、ca)が体の前方部を、植物極側の娘割球(av、cv)が体の後方部を形成したことになる。このように、割球配置と体軸の一致や動植軸に沿った胚葉予定域の並びは、環形動物、甲殻類、および脊椎動物で見られることから、三胚葉性を示す動物群に共通する性質であると考えられる。
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