研究概要 |
本年に計画した分類群の生鮮資料について,屋久島,掛川他日本各地ならびにマレーシア国キャメロンハイランドで野外調査を行い目的の資料を得た.国内での調査として,セン類では特に頂生セン類センボンゴケ目のギボウシゴケ科Grimmiaceaeおよび関連群について資料収集を行った.マレーシアでは熱帯要素であるハシボソゴケ科Sematophyllaceaeのセン類とヌエゴケMizutaniaの生鮮資料の収集に努めた.これらについて分子系統解析(分担:出口)を行い,これまでにギボウシゴケ科について,形態から類縁性が指摘されていたキヌシッポゴケ科が分子系統上で互いに近い関係にあることが明らかになった.その他の分類群についても,順次シークエンスを行い系統解析を進めている.この一部は既に予報的に論文として公表した(Tsubota et al.2000). 比較形態学的研究(分担:峰雪,山口)として,タイ類の細胞分裂に見られる核分裂と色素体の分裂の挙動を中心とした特徴からタイ類のケゼニゴケ属Dumortieraの系統について再検討を行った結果,タイ類で一般的にみられる多色素体減数分裂とセン類やツノゴケ類,シダ植物のヒカゲノカズラ類に見られる単色素体減数分裂との接点に位置するコケの系統群であること示唆するものであった(Shimamura et al.2000).また,精子形成の研究をマキノゴケ属Makinoaについておこない,他のコケ植物との比較を進めている. ヌエゴケについての系統解析のために体細胞に含まれるテルペン類の分析を行った結果,典型的なタイ類型のテルペン類を有することが明らかになったことより,他のコケ植物やシダ類との類縁の議論の必要性は希薄になった.タイ類での系統的位置を明らかにするために現在,培養をつづけながら,DNAプライマーの作成に取り組んでいる.
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