研究概要 |
昨年度は両生類寄生線虫のうち,オオサンショウウオ寄生Spiroxys hanzakiとカエル寄生Spiroxys japonica(顎口虫科)について,ミトコンドリアDNAのCOI,核内DNAのリボソーム遺伝子ITS2領域の増幅に成功した.しかし電気泳動で単一のバンドを得ることができず,ダイレクトシーケンシングは困難であった.本年度は遺伝子組換え実験の許可を得て,これら遺伝子をプラスミドと大腸菌を用いる遺伝子組換え法で単離することを試みて成功し,塩基配列を解明した.またカエル寄生Hedruris ijimai(ヘドルリス科)のCOI,ITS2の塩基配列も同様に解明した.そこでこれらのSpiroxys属2種と,同じ顎口虫科に属する日本顎口虫をHedruris ijimaiをoutgroupとして,系統の分岐分析を行った.その結果,ITS2に基づく分岐図ではSpiroxys属は単系統群を形成し,現行の形態による系統に一致したが,COIではS.hanzakiと日本顎口虫Gnathostoma nipponicumが単系統群を形成するという異なった結果が出た.ITS2は極めて変異の起きやすい部分であり,属間の系統を解析するには問題もある.もしCOIの系統が正しいとすれば,哺乳類に専ら寄生する顎口虫属はSpiroxys属が誕生した後でその1枝から派生したことになり,宿主の進化とも併せて興味ある所見といえる.またこれらの研究の中でSpiroxys属は発育に4期(幼虫期3+成虫期)しかないことを発見したが,さらにイノシシ寄生のドロレス顎口虫G.doloresiでも同様に4期しかないことを証明した.このことは顎口虫科の進化のごく初期に通常の5期型の発育から4期型への変換がなされ,以後その型を踏襲してきたことを意味しており,線虫発育期の進化を考察する上で興味深い.また両生類寄生Trypanosoma類のCOI遺伝子を増幅させる有望なプライマーが判明し,目下検討中である.来年度は両生類寄生Rhadias属線虫とTrypanosoma属原虫を中心に解析を進める予定である.
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