加齢による歩行様式の変化は、階段昇降時の方が顕著になると考え、そのときの下肢の関節角度の時間的な変異を男性38名と女性107名についてしらべた。12段の階段(蹴上16.5cm、踏面27.5cm、幅132cm、傾斜角32゜)を使用し、被験者の下肢の関節部位および爪先にマーカーを貼り付け、階段昇降動作を側面からビデオ撮影し、マーカーから関節角度の時間的な変化を求めた。その結果、昇段時においては、股関節、膝関節、足関節の運動域、最大屈曲角とそのタイミング、最大伸展角とそのタイミング、さらに速度のいずれにおいても、男性では加齢による変化はみられなかった。女性では、加齢によって股関節が最大伸展位となるタイミングが遅れ、また速度が低下することから、下肢の伸筋群の短縮性収縮(コンセントリック収縮)における筋力が衰えたか、あるいは神経からの収縮命令系の遅れによって、上体を持ち上げる動作が遅れたためと考えられる。男性にはこのような現象がみられなかったことは、男性における筋力の衰えは、女性ほど顕著でないと考えられる。降段時では、男性、女性の双方において、加齢によって膝関節の運動域が大きくなった。また、男性の場合、爪先が接地した時期にみられる膝関節の最大伸展角が、50歳代では高齢者に比べかなり大きく、膝が完全に伸展せずに屈曲した状態で階段を降りているということがわかる。これは、膝の伸筋である大腿四頭筋の筋力が十分にあるということを意味する。速度に関しては、女性において昇段時と同様に、高齢者ほど遅く、これは昇段時の短縮性収縮における筋力の衰えとは別に、伸張性収縮の筋力とコントロールの衰えが直接関与している可能性があるが、転倒の危険に対する恐怖心といった心理的要因の関与も無視できたい。
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