本研究ではマイクロCTによる歯冠部計測データと従来の表面形状計測データの双方を統一的に扱う三次元解析システムを開発した。従来の表面形状計測データ解析システム(3Dルーグル)をアップグレードし、マイクロCTによる歯冠計測データを高精度で移入するシステムを構築した。一方で、マイクロCT装置を用い、歯冠形状を高精度で再構築するための最適な方法を確立し、その経験精度を明らかにした。次に現代人、現生類人猿などの大臼歯、合計78点についてCT撮影を実施した。このデータ群をもとに今後、初期人類歯牙化石の比較形態解析を進める。方法論的成果は以下の通りである。1)CTデータから歯冠エナメル質の内外表面形状を三次元的に抽出する方法を3通り検討した。中でも重液を使用した撮影法を考案し、歯頚部を含めたエナメル表面形状全体を客観的に抽出することに成功した。2)フィルターによるビーム調整、ビュー数、積算、スライス厚さなどのCT撮影条件を検討し、beam hardeningとpartial volume effectの影響を低く保つことにより、1ボクセル以内の精度の形状抽出に必要な諸条件を決定した。3)CTデータによる歯冠形状データから表面形状データを導出するための等値輪郭線法を考案した。4)3Dルーグルの新たなZ-mapレンダリング法を開発し、従来のものよりエッジ部で1ピクセルほどの精度の向上を実現した。また、歯冠計測時の計測点指定法、軸決定法などについて新たなルーティンを考案した。5)3DルーグルおよびCTルーグルの側長、表面積、断面積、投影面積、体積などの計測におけるデジタル誤差を検討し、格子密度との関連を明らかにした。また、本システムにおいて、CTデータによる表面形状データと従来の表面形状計測データとの間の整合性を検証した。
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