前年度の研究ではマイクロフォーカスX線CT装置とレーザー三次元表面形状計測機の双方による入力データを取り扱う三次元計測解析システムを確立し、歯冠計測におけるその精度を検証した。本年度では、昨年度に引き続き三次元データの計測入力を進めると同時に、一部のものについて歯冠外表面計測用の表面形状データを作製し、機能的観点から初期人類の歯牙形態の比較形態解析を行った。マイクロCTによるヴォリュームデータ計測としては、現生類人猿などの未咬耗(もしくは極微小咬耗)大臼歯30点についてCT撮影を実施した。これらと昨年度分のCT撮影標本のうち、下顎第一大臼歯25点について表面形状データを抽出し、比較解析に用いた。レーザー三次元計測としては、初期人類の上下顎第一および第二大臼歯の高精度歯冠模型52点について6面計測を実施し、これらのうち下顎第一大臼歯19点について計測用の5面合成データを作成した。比較解析をこれら44点の下顎第一大臼歯について行った。方法としては、歯冠部を機能的単位に分けて分析する目的で12計測項目を設け、種ごとの特徴を変数ごとに検討した。その結果、繊維質を多く含む食性のゴリラではPhase I領域の稜線が発達し、完熟果実を多食するチンパンジーとオランウータンでは咬合面積が広いことが数量的に示された。初期人類の第一大臼歯は、磨耗後の咬合面積が大きいことと、歯冠基底部の高さが高いことが数量的に明らかにされた。初期人類大臼歯のこれらの形態特徴はcrushing/grindingに重点を置き、耐磨耗性に優れたの歯冠形態構造と解釈された。
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