本研究では非接触型レーザー3次元形状計測装置とマイクロCT装置を用いて歯冠部の高解像度三次元表面形状データを取得し、これらを基に比較形態学的解析を行い、初期人類の歯牙形態特徴を論ずることを目的とした。本研究では、産業用マイクロCTを用い、数100枚におよぶ連続断面からなるCTボリュームデータセットを効率よく取得し、そこから歯冠表面の形状データを精度よく抽出し、レーザー計測装置による計測データと同様に解析する方法を開発した。特に、双方による表面計測データを統合的に扱う画像解析システムを構築し、デジタル計測におけるその精度を検証した。また、歪みの少ないCTデータを利用することにより、比較標本を充実することが可能となり、現代人32、チンパンジー40、ボノボ27、オランウータン42、ゴリラ10の大臼歯についてCTデータを取得した。初期人類標本はアルディピテクスをも含む大臼歯の高精度模型53点についてレーザー三次元計測を実施した。これらについて形態解析を遂行中であるが、下顎第一大臼歯について初期人類の特徴を新たに示すことができた。果実食のチンパンジーとオランウータンは咬合面面積が相対的に広く、歯冠高が低く、ゴリラは稜線が発達し、咬頭が高く咬合面が深いことで特徴づけされる。これに対し、初期人類の下顎第一大臼歯は磨耗後の咬合面積が大きく、歯冠基底部の高さが高く、堅い食物への適応と磨耗耐性においてすぐれていることが判明した。初期人類の中で、咬頭面積などで著しく異なる頑丈型そうでない猿人を比較すると、機能的意味のあるパラメータにおいては、違いが以外に少なく、双方の違いは質的にはなく、量的なものであることが示唆された。今後は初期人類型の機能的特徴が600から400万年前の間にどのように出現したか追及する。
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