平成13年度に追加した新たな試料は、福岡県鞍手郡新延野田遺跡から出土した人骨である。この横穴遺跡は古墳時代のものであるが、この地域の弥生時代のサンプルが手に入らなかったので、古墳時代の遺跡を選択した。全部で6個体のサンプルからDNAを抽出し、PCR法を用いてミトコンドリアDNAのD-loop領域の一部を増幅した。残念ながら人骨の保存状態が悪く、塩基配列の決定ができたのは一個体のみであった。現代人との相同検索の結果、この配列は琉球の現代人と一致することが判明し、その系統は日本の基層集団に由来する可能性が示唆された。 本年度は研究の最終年度であるので、これまでに蓄積した古人骨データを用いて、縄文・弥生・現代日本人の関係を解析した。その結果、以下の事柄が明らかとなった。1.縄文人とアイヌ・琉球の人々とは共通するミトコンドリアDNAハプロタイプを持ち、その近縁性が確認された。2.同時に縄文人と朝鮮半島の人々との間にも共通する配列が多く出現し両者の近縁性も無視できないことが新たに判明した。3.縄文人には南太平洋諸島に特有なミトコンドリアDNAの配列は存在せず、今回の解析でもたらされたデータからは縄文人の南方起源ないし密接な関係は支持されない。むしろ縄文人の起源は、アジアの広い地域に散在しているように思える。4.唐古・鍵遺跡のmtDNAのタイプは、モンゴル等の北方系の集団やアイヌと共通の塩基配列を持ち、最近の遺伝学的な研究の結論から演繹すれば、縄文系の特徴を持つと考えられる。5.渡来系弥生人にはアイヌ・琉球と共通する塩基配列も存在するが、その割合は縄文人ほどではない。6.本土日本人と縄文・弥生人との間には、共に共通する配列があり、両者が現代日本人の祖先であることが示唆された。
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