本年度は、半導体中のキャリアのスピン自由度を活用するために必要な基盤技術の一つであるスピン注入を実現することを目的とし、良質の強磁性半導体GaMnAs/非磁性半導体(In、Ga)Asへテロ接合からなるpn接合構造を形成するために、分子線エピタキシ再成長法を確立した。また、そのデバイスからの発光の偏光度を新規に購入した光電子増倍管を用いて低温・磁場中にて測定することにより、非磁性半導体へのスピン偏極電流注入を初めて確認した。スピン注入を観測したデバイスは、InGaAs歪量子井戸を活性層とするpn接合発光ダイオードで、Mnを〜5%含有する強磁性半導体GaMnAsをp型層として用いている。高い発光効率と高純度を得るため、活性層とその上のキャップ層までを高純度の分子線エピタキシ装置で形成したのち、表面の酸化・汚染を防ぐために砒素で覆った後、一旦大気に試料を出す。その後、磁性イオン(Mn)を有する別の分子線エピタキシ装置に試料を導入し、砒素キャップ層を蒸発させた後低温(〜250℃)にてGaMnAsを成長した。(磁性/非磁性半導体界面が形成される)再成長前の表面は高エネルギ電子線回折によりその場観察し、その回折像から再成長表面において原子層オーダーの平坦性が維持され、またGaMnAsがエピタキシャル成長する様子を確認した。このデバイスをGaMnAsの強磁性転移温度以下に冷却し、光の進行方向と平行に数10ガウスの磁場を印加したところ、発光iの偏光度に約±1%程度の差が生じ、さらに磁場を変化させ極性を変えたときに、GaMnAsの磁化曲線と同様なヒステリシスが見られた。これは、GaMnAs中でスピン偏極した正孔が、非磁性半導体にその極性を失わずに運び入れた直接的な証拠といえる。
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