本研究では、申請者が開発した変調有機分子線錯乱装置を駆使して有機薄膜成長の動的過程を追求し、さらに基板および有機膜表面の分子吸着を利用して無機半導体に見られるサーファクタント・エピタキシーを発展させた新しい有機結晶成長制御法を確立することを目的としている。平成11年度に得られた結果は以下の通りである。 1.パルス分子線による結晶成長 速度分布のわかったパルス分子線(キナクリドン、Alq_3、C_<60>)をパルス幅を変えて単結晶基板に照射することによって結晶成長を試みた。結晶成長の過程を原子間力顕微鏡で追跡することにより、結晶核の発生頻度がパルス幅に依存することが明らかになった。特に、ある中間のパルス幅で核形成が起こらなくなる条件があることを見出し、表面をマイグレーションする分子が衝突した際にダイマーを形成するか脱離するかの比に依存することを理論的に解明した。これは、気相からの結晶成長の際、基板に衝突する分子と基板から脱離する分子が動的平衡に達する過程を初めて定量的にとらえたものである。 2.分子の表面滞在時間の測定による分子-基板間の量子摩擦の解明 H_2Pcのパルス分子線を様々な無機基板に照射し、散乱される分子の時間分布を測定した。その結果、滞在時間には大きな基板物質依存性があること、単結晶mica(001)基板に比べてアモルファスSiOx基板上の滞在時間が2桁短いことが明らかになった。これは、mica上では分子・基板間に規則的な電機双極子相互作用が働き拡散時間が長くなる量子摩擦の効果であると考えられる。現在、脱離位置を特定する測定を行い、拡散定数を精度良く求めるために装置を改良している。 平成12年度においては、さらに多種の基板・分子に対して分子-基板相互作用を測定することと表面吸着を併用した結晶成長制御法の確立を目標とする。
|