1.GaAs微傾斜基板上に成長するZnSe表面を高エネルギー反射電子回折法で実時間観察し、微傾斜表面特有の原子ステップ列を実験とシミュレーションで詳しく調べた。ZnSe成長表面上には均一なテラス幅でテップ高(段差)が1モノレイアのステップ&テラス構造が発達し、傾斜角が5度の場合、高さ1モノレイアのステップが32.6±1.6Åの間隔で規則正しく配列する。実測パターンとシミュレーションパターンを比較して、テラス幅のゆらぎは3ML以下、ステップ列の直線からのゆらぎすなわち波打ちの周期は60ML以上であることがわかった。ステップ列が形成されたZnSe上に2モノレイアのCdSeを成長させても電子回折像は変化せず、ステップ&テラス構造はCdSe層に受け継がれた。 2.微傾斜基板上に作製したZnSe/CdSe/ZnSe量子構造の特性を理論的に検討した。CdSeの格子定数はZnSeより約7%大きい。したがって、微傾斜面上に成長する場合は、ステップ端のCdSe結晶は底面と側面でZnSe結晶に接するので静水圧的圧縮応力を受ける。テラス面上では平坦基板の場合と同じく2次元圧縮応力を受ける。このため微傾斜基板上に作製されたZnSe/CdSe/ZnSe量子井戸では、量子井戸面内で微傾斜方向にCdSeのバンドギャップが周期的に変化し、この方向にも量子効果が出現して2次元量子構造が形成される。原子スケールでの格子歪み分布の計算に基づいて考察し、量子井戸内の伝導帯と価電子帯のエネルギー変化はそれぞれ20meVと30meVで、ともにキャリアをテラス部分に閉じ込める作用をすることがわかった。
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