複数個の電子的に独立した、異なる井戸幅の量子井戸から構成される半導体量子複合構造系において、光生成された電子・正孔ペアまたは励起子(エキシトン)の競合的量子捕獲過程が現れる機構を格子温度などの関数として明らかにするために、発光ダイナミクスについて研究を実施し、以下の成果が得られた。 (1)フォトルミネッセンス発光における量子捕獲過程の存在 3種類又は4種類の異なる井戸幅を持った量子井戸各々の極低温における励起子フォトルミネッセンス発光強度のピコ秒時間分解測定を実施した。低いエネルギーの発光バンドが他の発光バンドよりも格段に弱い発光を示す特異な現像は、発光再結合寿命時間とは異なる、量子捕獲過程によって決まる短い発光寿命時間をもつことを複数個の試料について実験的に検証した。 (2)量子捕獲ダイナミクスの格子温度効果 量子井戸間の競合的量子捕獲ダイナミクスが支配的となる、励起子発光過程が示す格子温度効果は、独立した量子井戸が通常示す発光再結合寿命時間の格子温度効果とは全く異なる新たな特性を有することを実験的に明らかにした。 (3)量子捕獲ダイナミクスの井戸幅揺らぎ依存性 分子線エピタキシャル結晶成長時に成長中断法を用いて作製した単原子層テラス構造を有するGaAs量子複合構造系の試料について、量子捕獲ダイナミクス過程が存在することを実験的に検証した。本実験の詳細な解析から複合量子井戸からの発光強度分布に及ぼす効果は、障壁層バンド端と第一励起サブバンドエネルギー準位の相対的なエネルギー位置関係が重要であることを新に発見した。 (4)量子複合構造系の量子捕獲ダイナミクスとその機構 外部障壁クラッド層のヘテロ構造のみが異なるGaAs量子複合構造系の試料間の比較から、クラッド層が混晶導体ではなくGaAs/AlAs超格子で構成された試料では、発光強度分布及び発光ダイナミクスが全く異なった発光特性を示すことがわかった。また、格子温度効果を調べ、量子捕獲過程による発光強度分布差が現れる機構は外部障壁クラッド層のエネルギー構造の違いにより変わり得ることを示した。
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