研究概要 |
今回、DSB構造をもつZnSe-ZnTe超格子[(7,2)_6(2,5)_1]_<100>を成長し、その構造解析および波長変換効果のメカニズムを検討した。評価にはHRXD、ラマン散乱、PL励起光源依存性、PL励起光強度-発光強度依存性を行った。HRXDでは二重サブバンド超格子の結晶構造で支配的な(7,2)_6層の短周期超格子に対するサテライトピークの0次、±1次、-2次が観測された。また、(2,5)_1層からの0次のサテライトピークと思われるものも現れた。これらの回折ピークとシミュレーション値を比較した結果、ほぼ設計どおり超格子が成長していることを確認した。ラマン散乱では、ZnSeおよびZnTe likeのLOフォノンの重ね合わせによるスペクトルが観測され、2モードとしてLOフォノンを観測できたことから混晶化していないことを確認できた。また、PL励起光源依存性では長周期超格子中に存在する(7,2)_6および(2,5)_1からの発光スペクトルが、それぞれ2.2 eVと1.8 eVに見出された。前回の実験では育成した[(2,2)_<12>(2,5)_3]_<30>DSB超格子は、2.1 eVと1.9 eV付近にピークをもつ。本研究の目的の一つである波長変換を示す発光ピークのエネルギー位置を2.1 eVから2.2 eVへ約0.1 eV高エネルギー側へシフトすることができた。しかし、波長変換効果の変換効率の指標となる2つのピークの強度比(I_<2.2>/I_<1.8>)が前回よりも大幅に小さくなった。これは、励起光強度-発光強度依存性による解析の結果を支持する。強度依存性を示すべき乗nが、[(7,2)_6(2,5)_1]_<100>の超格子では波長変換を示す2.2 eVのピークに対して1.3となった。だが、前回育成したサンプルの波長変換ピークのn値は1.7であり、これら2つのn値の大きさを比較すればピーク強度比の減少も肯ける。波長変換効果はそのn値から、自由励起子発光(n=1)とは異なる発光起源をもつと推測できる。最後にHRXD、ラマン散乱、PLの測定結果も踏まえて、波長変換のメカニズムを具体化するための遷移過程モデルを提案した。前回の実験も踏まえ、波長変換効果には特殊設計超格子特有の2光子吸収のような段階的な遷移過程が生じているのではないかと考えられる。
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