本研究は、共有化合物多量体を含めた不純物タンパク質に注目し、これがどのようにタンパク質結晶に吸着し、成長に影響を与え、そして結晶内にとりこまれていくかというメカニズムを明らかとすることを目的とした。ターゲットとなるモデルタンパク質としては、現在最も高純度な試料が大量かつ安価に入手でき、かつ、共有結合多量体の存在が確認されているリゾチームを選択した。また、結晶表面への不純物の吸着、取りこみ過程の観察には原子間力顕微鏡を、結晶に取りこまれた分子の密度分布の測定については蛍光顕微鏡を用いた。その成果の具体的な概要は以下の通りである。 (1)タンパク吸着観察システムの開発 タンパク不純物分子が結晶表面に吸着する過程を、原子間力顕微鏡によって直接観察するための溶液交換システムを新たに構築することに成功した。 (2)タンパク質吸着を左右する因子の検討 上記のシステムを用いて、(不純物を含まない)リゾチーム分子が結晶表面に吸着する様子を観察し、リゾチームは、おおよそ4分子を基準として吸着すること、静電相互作用が重要な役割を果たすこと、等が示された。 (3)不純物分子の結晶形状に及ぼす影響の分子レベルでの検討 仮想多量体としてovotransferinを不純物として用い、蛍光顕微鏡及び原子間力顕微鏡により結晶中の不純物及び結晶表面の観察を行った結果、(110)面と比べ(101)面により不純物が多く吸着し、取りこまれることを明らかとした。さらに、結晶の形状の変化が、このような選択的吸着・取りこみによって説明できることを明らかとした。
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