予備的な実験として通常の原子間力顕微鏡(AFM)を用い、そこに設置した試料に対して高周波の超音波振動(振動数f_1〜11MHz、振幅<1nm)を印加した。さらに外部からf_1に近い周波数f_2で変調された収束レーザービームを照射した。試料に照射されたレーザービームは局所的に試料の温度を上昇させ、周波数f_2を持つ周期的な熱膨張が生じる。試料と深針の間に働く力が距離に対して大きい非線形を持つためにミキシングが生じ、差周波数f_1-f_2の低周波振動が現れる。試料表面からの熱の拡散は表面下の構造に強く依存するために、通常のAFMでは見ることのできない表面下の情報を可視化することができる。装置の動作を確かめるために、SiO_2の格子状薄膜をSi基板の上に蒸着し、さらにそれらをCrの薄膜で覆った試料を用意した。この試料において、Cr薄膜下に埋め込まれたSiO_2格子の像を、熱拡散イメージとして得る事に成功した。 また得られた信号は、試料・深針間に働く力が非線形性により、試料の弾性的性質および表面における付着力の影響を含む。この影響を詳しく調べるために、レーザを照射しない状態で、試料と探針の間に超音波を励起し、そのときの応答を測定した。それと並行して、カンチレバーを単純なバネと質点で置き換えたモデルに表面の接触理論を組み合わせることにより応答を数値的に計算した。実験と数値計算を比較する事で、信号の中に含まれる表面付着力の影響が大きいことを明らかにした。
|