本研究において、超音波フォトニック局所プローブ顕微鏡を開発する上で必要な、光へテロダイン法の理論モデル構築および実験的検証、励起周波数の高周波化を行ない、次の結果が得られた。 レーザによって励起された高い周波数の熱弾性振動を、光へテロダイン法によって原子間力顕微鏡カンチレバーの基本共振周波数よりも低い周波数の振動に変換し、その振動が検出可能であることを理論的に示し、かつ、表面下に構造をもつ多層膜試料において実際に検出できることを明らかにした。試料として、Si(100)基板上にCrを100nm蒸着し、Si/Crの間に厚さ150nmのSiO_2層が埋め込まれている1次元ナノ構造を作成した。得られた像(振幅と位相)について理論計算と比較した結果、理論の予測通りSiO_2が埋め込まれている領域とSiO_2が存在しない領域との間に振幅にはコントラストが小さかったが、位相については理論の予測の約10倍にあたる、40°という大きなコントラストを得た。これは、理論計算の際に考慮しなかった各層間の熱抵抗によるものであると考えられる。 分解能を向上させるために、励起周波数の高周波化を行なった。通常の原子間力顕微鏡に高周波の超音波(周波数170MHz、振幅<1nm)を試料に励起するためのトランスデューサを取り付けた。厚さ50μmおよび20μmのLiNbO_3単結晶を超音波トランスデューサに用い、実際に超音波が励起されかつ検出できることを明らかにするために「超音波非線形力顕微鏡法」を用いた。その結果、170MHzまでの周波数においてSi基板上のGe量子ドット試料に超音波が検出および励起されていることを確認した。
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