本研究の目標は、電界イオン化過程を利用することによりスピン偏極したHe(1^2S)イオンが実際に生成出来ることを確認することにある。そのために、生成したイオンビームの特性の一つである運動エネルギー分布を測定する。そして、その結果に基づいてスピン偏極イオンビームを効率良く生成する技術の確立を目指す。 そこで本年度は、昨年度に引き続き、先ず製作したイオン源装置の調整を進めるため実際にArガスを用いて電界イオン化の確認を行った。さらに、生成したArイオンビームの運動エネルギー分布測定を行うため、イオン速度の選別器であるWienフィルターを用いた測定も試みた。 製作した装置は、昨年度準備したイオンポンプ(Varian社製)を用いて排気されており、ベース圧力として6×10^<-8>Torrが達成出来ている。これにより、電界イオン顕微鏡(FIM)像の分解能を減少させる原因となる真空槽内に残留する水素原子を効果的に取り除くことが可能となった。 探針試料としてタングステン、結像ガスとしてアルゴンの組み合わせを用いてイオン化の確認実験を行って来た結果、電解研磨により作成した探針先端の曲率半径(約600Å)では、当初準備したバイアス電源(ORTEC-556最大出力電圧5kV)を用いて電界イオン化に必要な臨界電圧2.2v/Åを発生させることが出来ないという問題が生じた。そこで、より高電圧・低ノイズな電源(GLASSMAN-PS/MJ15N1000最大出力電圧15kV)を本年度に購入した。これにより、Arだけでなく、臨界電圧4.4V/ÅのHeを電界イオン化する上でも十分な条件を満たすことが出来る。現時点では、探針先端の清浄化を上手く実現出来れば、ほぼ確実にFIM像を観測出来る状態にある。 生成したArイオンの運動エネルギー分布測定を行う場合、Wienフィルターを通過したイオンをマイクロチャンネルプレート(MCP)で直接に計数測定するが、接地ラインおよび空間からの周期的雑音信号のためイオン信号のみを拾い上げることが難しい状況が生じた。電源ラインへのフィルターの挿入、信号ラインへのシールド等により雑音の除去を工夫した結果、イオン信号を検出出来るまでになった。現在、イオン信号はオシロスコープにより直接読み取っているため運動エネルギー分布を表示出来ないが、平成13年度に申請した科研費補助金により、信号収集およびスペクトル表示用システムを準備出来ればと考えている。
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