本研究の目的は、電界イオン化過程を利用することによりスピン偏極したHe(l^2S)イオンを選択的に効率良く生成する手段を提案し、具体的にそのようにして生成したイオンビームの特性(運動エネルギー分布)を評価することにより、実際にスピン偏極したHe(l^2S)イオンを生成出来ることを確認することにある。 平成11年度において、既存の簡易型電界イオン顕微鏡(FIM)装置のベース圧力改善及び残留水素ガスの効果的な除去のためにイオンポンプ(Varian社製、55l/s)を購入し、真空槽に装着した。これにより、真空槽のベース圧力は、6×10^<-8>Torrまで達成された。引き続き、探針(tip)試料としてタングステン、結像ガスとしてアルゴンの組み合わせにより、イオン化の確認実験に着手した。これと平行して、スピン偏極イオン化に適したNi tipを電解研磨により作成する条件の検討も行った。作成したtip先端の曲率半径がW(500Å)、Ni(400Å)であることから、tip電圧印加用の高電圧・低ノイズな電源(GLASSMAN-PS/MJ15N1000最大出力電圧15kV)により、Ar(臨界電圧2.2v/Å)だけでなく、He(4.4V/Å)を電界イオン化する条件は十分満たされており、現時点では、探針先端の清浄化を上手く実現出来れば、ほぼ確実にFIM像を観測出来る。 平成12年度より、生成イオンの運動エネルギー分布スペクトルの測定を本格的に開始した。先ずは、生成したArイオンを対象にして実験を行った。運動エネルギー測定では、Wienフィルターを通過したイオンをマイクロチャンネルプレート(MCP)で直接に計数測定するが、接地ラインおよび空間からの周期的雑音信号のためイオン信号のみを拾い上げることが難しい状況が生じた。電源ラインへのフィルターの挿入、信号ラインへのシールド等により雑音の除去を工夫した。現在、イオン信号はオシロスコープにより直接読み取っているため運動エネルギー分布を表示出来ないが、本研究期間内において当初の目的は十分に達成されたと考えられる。
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