本年度は研究実施計画に従い、新しいアイデアを盛り込んだ高分解能エネルギーフィルター装置の製作を行い、ほぼ完成に至った。本装置は阻止電場型のエネルギーフィルターであり、これまで1枚のグリッドで阻止電場用高電圧を吊り上げていたが、今回は3枚のグリッドで高電圧を段階的に吊り上げるため、エネルギー分解能の向上が期待される。また、エネルギー識別された回折電子線強度はファラデーカップを用いて直接電子電流が検知できるようにしたため、広いダイナミックレンジを有す電子線強度測定が可能となった。蛍光スクリーンは可動式とし、エネルギーフィルターされたRHEED図形観察時は蛍光スクリーンをエネルギーフィルターのグリッドに接近させてレンズ効果による電子線の広がりを抑え、また回折電子線強度の測定時には蛍光スクリーンを後方に移動させてファラデーカップが挿入できるようにした。現在グリッドに用いる金属メッシュの球面成型を残すのみとなっている。 本装置の計測システムにはLEED-Auger分析器と同様な手法を採用する。すなわち、阻止電場用高電圧に周波数ωの変調用高周波電圧を重畳し、ファラデーカップで測定された反射回折電子強度をロックインアンプを介してωもしくは2ωの周波数成分の信号を増幅して従来型もしくは微分型のエネルギー損失スペクトルを得る。しかしながら、本年度の予算はエネルギーフィルター装置本体の製作でほぼ消化されたため、変調用高周波電源を含む高圧スイープ電源の製作は来年度前期までに終え、その後、回折電子分光の実験に入る予定である。
|