前年度でエネルギーフィルタ本体の製作を終え、本年度は計画通り計測システムの構築を行い、そのエネルギー分解能の基礎的データを取得した。 計測システムの主たる構成要素である阻止電場印加用高圧スイープ電源(SPECTA RHEEDコントローラ)を製作し、任意電圧領域を一定速度で走査可能とした。この阻止電圧は、5枚の阻止電場グリッド(#1〜#5)の中央グリッド(#3)のみならず、グリッド#2と#4にも印加でき、エネルギーフィルタを通過する電子線電流はファラデーカップで検知するシステム構成である。阻止電圧には、周波数ωの高周波電圧が重畳されており、ファラデーカップから得られる電気信号をロックインアンプを経由してω成分のみを抽出すれば、バンドパス型のエネルギー損失スペクトルが、また2ω成分を抽出すればそのエネルギー微分型スペクトルが取得できる点が本装置の特徴である。グリッド#2と#4には、グリッド#3の阻止電圧-V_0の急激な電位分布の弛みを防ぐため-rV_0の補正電圧を印加できるようにした。 装置のエネルギー分解能を調べるため、補正電圧の係数rの値を0.5、0.7、0.9に設定し、まず入射電子線そのもののエネルギー損失スペクトルを測定した。その結果、ほぼ予想通り7keVの入射電子に対しては、r=0.9の時に最もエネルギー分解能が高くなり、ピークの半値幅から6.4eVであることがわかった。 次に、RHEEDの回折電子線を対象にエネルギー損失スペクトルの測定を試みたが、その電子電流は極めて小さく、測定困難であった。そこで、多少エネルギー分解能は犠牲にしても透過率を上げるために、#4のグリッドを取り去って実験を行ったが、十分な強度が得られず計画の遅れを招いた。そこで現在、プリアンプの挿入とファラデーカップの代わりにチャンネルトロンの利用を試みているところであり、ほぼ測定可能な段階に至っているため、最終年度内には研究計画の実現は可能である。
|