阻止電場型エネルギーフィルターを通過する電子線電流の増幅にチャンネルトロンを用いた改良を行うと同時に、信号検出回路の改良も行い、本年度、実験計測可能なエネルギーフィルター型RHEED装置が完成した。この装置のエネルギー分解能は6.2eVであり、電圧走査速度は1V/sで約0.3eV毎のデータ取り込みが可能である。ロックインアンプにより直接エネルギー微分されたエネルギー損失スペクトルが取得できるため、非弾性散乱現象の動的観測や微弱な観測に有効である。 まずSi(111)7x7清浄表面に対するエネルギー損失スペクトルの視射角依存性を[11-2]、[1-10]そして[11-2]入射方位から約7.5°ずらしたone beam入射条件において測定した。この表面の計測は以前に行ったが、そこでは数値微分を用いたかなり荒い結果であったため今回再度計測した。得られたエネルギー損失スペクトルはS/N比がかなり優れているため、ガウス関数によるフィッティングと各表面プラズモン損失ピークの積分強度のポアッソン分布からLucasらの理論値の検証を行い、その妥当性を確認した。また、ある試射角において、表面プラズモンエネルギーのわずかな増大が認められた。これは回折条件に依存した初めての発見であると思われる。また、Si(111)7x7表面上にIn金属を3Åまで成長させたときの表面プラズモン損失ピーク値を調べたところ、1原子層程度の被覆では表面プラズモンエネルギー値にあまり変化が見られず、30Å程度の被覆でSiの11.7eVから10.4eVに減少すると同時に、飽和する傾向が見られた。しかしながら、その値はまだInの表面プラズモンエネルギー値8.9eVには至っておらず、SiとInの中間的値であった。表面プラズモンエネルギーは電子密度に依存するため、Inの自由電子密度とSi基板の価電子密度の混成した中間的電子密度、すなわち界面領域の表面プラズモン振動が寄与しているものと考えられる。 このように本装置により、未開拓領域である非弾性散乱電子の回折条件依存性や薄膜の厚さ・形態依存性について明らかにされてゆくものと期待される。
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