トリフェニルメタン系色素の一種であるマラカイトグリーン色素分子は3つのフェニル環が中央の炭素と一重結合的に結ばれている。基底状態S_0では分子は平面に近い構造をとるが、S_1準位に励起されると、それら一重結合のまわりのフェニル環の角度に不安定性が生じ、通常の粘性が小さい有機溶媒中では蛍光寿命がきわめて小さく、実質上蛍光を発しない。しかし、このフェニル環の回転はマラカイトグリーン色素分子の周りの局所的な微視的粘性に強く依存し、その蛍光寿命から媒質の微視的粘性に関する情報を得ることができる。 我々は、マラカイトグリーン色素分子でタマネギの細胞を染色し、細胞内の各部の微視的粘性をマラカイトグリーン色素分子の蛍光寿命の測定から求めた。この方法では励起レーザー光の集光と蛍光測光を顕微鏡の下で行うことにより、一つ一つの細胞あるいは各細胞の細部における微視的粘性を高い空間分解能で測定することができる。タマネギ細胞における予備的実験では、個々の細胞に粘性のばらつきが存在したが、細胞壁に比べて細胞核の蛍光寿命が長いという傾向が認められた。細胞中の水の状態、すなわち微視的粘性は細胞の活性度と密接な関わりがある。まだ予備的実験段階ではあるが、この方法が蛍光測光という本質的には高感度かつ非浸襲的であるため、適当な蛍光分子プローブの開発を行えば、光ファイバー等の利用により、医学的応用への期待ももたれる。
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