研究概要 |
量子系の制御のための新たな手段として量子Zeno効果,あるいは反Zeno効果を用いることを提案し,その有効性を実証してゆくのが本研究の目的であった.量子Zeno効果を利用すると,観測や緩和といった非ユニタリー過程によって量子系の運動を制御することができる.過程の非ユニタリー性にも拘らず確率密度は保存される.量子Zeno効果においてはコヒーレンスの消去あるいは破壊が本質的な役割を果たしている.量子Zeno効果により状態間のコヒーレンスを作ることさえ出来る.コヒーレンスの消去の仕方には多様性があるので,ユニタリー過程の実現がむずかしい状況においても代用できる可能性がある. 本研究では,まず具体的な系として,従来からよく知られている光ポンピングの系を用いた.光ポンピングは円偏光の持つ角運動量を原子のスピンに移すことにより,それらを整列させる技術で,量子エレクトロニクスの草創期から重要視され,最近では原子の冷却において欠かすことのできない手法として用いられている.我々はこのように古くから良く知られた系において,量子Zeno効果が本質的な役割を果たしていることを発見した.すなわち,光が強い極限では,原子の偏極はポンピングによって維持されているのではなく,ゼーマン準位間のコヒーレンスの破壊によってスピンの反転が禁止されているためであることを明らかにしたのである.この事実は,光の吸収量の絶対値が,入射強度の増加に対して漸近的にゼロに近づくことを観測することで実証することができた.
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