研究概要 |
フェライトの一種であるイットリウム・鉄・ガーネット(YIG)の高品質な膜が液相エピタキシャル成長法によりガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)基板上に育成されるようになった。しかし,高品質のYIG膜といえども,その損失のために,静磁波ソリトンの観察される距離は変換器から高々10ミリメートルの範囲である。また,損失のために,静磁波ソリトンの振舞を記述する非線形シュレーディンガー方程式から決まる1-ソリトンに必要なエネルギーよりも大きいエネルギーを必要とする。 非線形シュレーディンガー方程式によれば,マイクロ波入力をあげていくと,入力波形が矩形であってもソリトン作用によりハイパボリックセカント型のソリトンが形成される。さらに,入力を大きくすると,複数のソリトンが形成され,それらは同じ速度で伝搬するので,相互に影響を及ぼしあって周期的な変動を繰り返す多ソリトンの状態になる。この多ソリトンの状態では,始めの入力パルス幅の40分の1以下の非常に短いパルスになる状態がある。実際には,損失のため,矩形波入力では3分の1程度のパルスしか得られない。しかし,入力波形を放物波形や正弦波形にすれば,伝搬距離5ミリメートル程度で単峰性の短いパルスをつくり出すことができることを理論的に明らかにした。実験を行うのに適した波形を得るために波形整形フィルターを不均一伝送線路により試作する方法を検討した。すなわち,電信方程式をいわゆるザハロフ・シャバット方程式に帰着し,この方程式に対する逆問題としてフィルターを設計する方法を提案した。反復法により,この逆問題を解く方法と反復法に依らない方法を提案した。反復法に依らない方法は計算時間が短縮できるばかりでなく,適用範囲も広いことが明らかになった。
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