研究概要 |
1.薄膜レンズの球面収差補正特性の計算:実験に使用する電子顕微鏡に対して最適な補正特性を持つ薄膜レンズを設計するため,薄膜レンズの形状パラメータを変えて3次と5次の球面収差係数を計算した.その結果,実用上可能な薄膜レンズ電圧で補正を達成するためには,薄膜レンズを対物レンズポールピースの下側磁極片にできるだけ近付けて配置し,薄膜レンズ電極の孔径を従来より小さく0.3mm以下にする必要があることが分った.正の小さな3次球面収差と負の5次球面収差がバランスして最も球面収差の影響を低減できる最適な薄膜レンズ電圧は約600Vであり,静電力による薄膜の破損が起こらない程度に低い電圧であることも分った. 2.薄膜レンズの設計と製作:上記の計算結果に基づき,サイドエントリー薄膜レンズの設計・製作を行った.下側磁極片直上に配置するため,従来のねじ止めによる電極固定に替えて,1.7mmのブロックに電極と薄膜にコンタミネーションが生じることを防ぐための薄膜加熱用機構を組み込んだ.また,解像度を制限する要因となる軸ずれを減少するための微動機構を設けた. 3.電顕の安定性の向上:電顕の安定性を向上させて超高分解能観察を実現するため,機械的安定性を左右する冷却水の流量,温度の制御のために備品としてクーリングポンプを購入し,冷却水を±0.1℃の範囲で制御できるようにした.その効果により,長時間安定して像観察ができることを確認した. 4.像シミュレーション:マルチスライス法を用いて薄膜レンズ動作時の像強度を計算した結果,球面収差を完全に補正せず,3次と5次の球面収差をわずかに残したとき高い分解能が得られることが分った.
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