研究概要 |
1.薄膜レンズの軸調整法:微結晶試料に細く絞った電子ビームを入射し,微結晶により回折されたビームのパターンの対称性から薄膜レンズの光軸に対する横方向のシフトや傾きによって生ずる軸上非回転収差を検出する,薄膜レンズの新しい軸調整法を試みた.その結果,ある程度大きな非回転対称収差はこの方法で識別できるが,現有の電子顕微鏡(TEM)では絞った電子ビームのサイズが十分小さくないため,精度の高い軸調整はできなかった.そこで,非晶質試料のTEM像の対称性から試行錯誤により軸調整するという従来の軸調整法と新しい軸調整法を併用することとした. 2.球面収差の低減:薄膜レンズを動作させ,金微粒子のTEM像から球面収差係数の変化を測定した.測定には,入射ビームを傾斜させたときの明視野像と暗視野法のずれの大きさと方向から,球面収差と焦点はずれ量を同時に測定する新しく開発した方法を用いた.薄膜レンズを用いないときの装置固有の球面収差係数は2.1mmであるが,薄膜レンズに400Vの電圧を印加することにより0.4mmに減少し,前年度に行ったシミュレーションの結果と一致した. 3.格子像の観察:薄膜レンズに補正電圧を印加した状態で,金の(111)格子像(格子間隔0.23nm)を観察できることを示した.このことから,薄膜レンズの薄膜による散乱電子の影響による像コントラストの低下は,格子像レベルの高分解能観察が可能である範囲に抑えられていることが分った.
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