研究概要 |
超音波透過関連の理論的研究では,「実効的反射係数」の概念の詳細な解析を行い,超音波透過率向上の条件を厳密に求めた.この結果,固体基盤から層状構造物を介した液体への共鳴透過は,四分一波長板と類似の現象であると結論でき,有限層状物に対する分散関係と「実効的反射係数」との対応を明確にできた.さらに,分散関係の透過阻止振動数域に対する振幅透過係数から,新たな群速度の提案を行った.しかし,この共鳴透過を実現する音響インピーダンス条件を満たす超音波トランスデューサーの購入および作成が困難であったため,これの直接検証実験は行えなかった.また,新たな群速度の定義の妥当性に対する検証実験は,今後の課題として残された.なお、共鳴透過の際に液体と固体金属間の低熱抵抗に関する予想は,熱振動のエネルギー透過率が向上しても,熱抵抗自体を減少することはできないとの理論的結論を得た. 化学センサ関連への超音波の応用実験では,市販飲料を含む各種味溶液の識別に音速を用いることに加え,より多くの味物質を含む飲食料品へ適応する検討を行った.味の識別をより明確に行うため,超音波を味溶液に入射し,セル端面からの反射波を考察した.伝搬超音波の振幅と音速およびパワースペクトルにおける溶液固有の特徴を新たに確認した.また,パワースペクトルのデータに対し,自己組織化ニューラルネットワークによる解析を行い,超音波による味センシングの新たな可能性を示唆できた.しかし,官能検査である心理・生理計測と,超音波による物理化学計測との対応付けを行うには至らなかった.今後の味測定では,官能検査および超音波計測の利点を融合させた味測定の手法を開発する予定である.
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