研究概要 |
本研究の目的は,トップダウン自動微分の領域削減機構を実装し,より大規模な問題に対処できるような数値情報処理システムを設計し,試作することである.そのための基礎研究として,多様なデータ型を処理するシステムとして昨年度に取り組んだC++による多倍長浮動小数点数を用いた精度保証付き数値計算用の処理系は,常微分方程式の大域誤差の精度保証に特化したものであったが,本年度はこれを一般的な計算に対して適用できるように設計した.未だ試作中であるが,計算の中で最終結果に与える影響が大きいところがどこであるかを自動的に検索し,その部分の精度を自動的に高める処理系である.このため,個々の演算は多倍長浮動小数点数演算を行うように設計した.まだ試作中であり,実験的に共役勾配法の計算過程にこの処理系を適用し,精度を高めるべき計算がどういうところに現れるのかを調べている段階ではあるが,興味深い結果が得られるのではないかと期待している. また,これまでに取り組んできた処理系について概要を2000年7月に,フランス・ニースで開催された第3回自動微分に関する国際ワークショップにて発表した.その場で自動微分処理系の開発者と意見交換を行い,有意義な情報収集を行うことができた.これに関連して,高速自動微分の領域削減のためにはオペレーティングシステムのプロセスを複数起動してそれらを協調作業させることが必要であるので,そのためのプロセス制御方法をプロトコルとして提案させるべく研究を開始した.これは現時点では実装のひとつの提案ができているに過ぎず,その効力については追加実験が必要である. さらに,プログラム言語Cに対応した高速自動微分の処理系の開発にも着手しており,こちらは,ソースプログラム言語に依存する部分と,本質的に自動微分に関連する部分とを切り離して実装するために,自動微分のための中間言語を提案している. 本年度は備品としパーソナルコンピュータを4台購入した.そのうち2台は,研究代表者がプログラム開発と研究取りまとめのために使用し,残り2台は共同研究者ではないが,共に問題解決に取り組んでいる学生のためのものである.また,外国旅費は予定通り,第3回自動微分に関する国際ワークショップに参加発表することに充当した.
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