研究概要 |
平成11年度の研究成果により回転曲げ疲労試験中における最大引張応力負荷時の試験片外周上の実応力分布を測定するシステムが完成し,このシステムで測定された実応力分布からき裂の発生時期および発生位置の検出が可能性が確認できた.本年度はこの実応力測定システムを用い,ピーニング処理鋼材の片持ち回転曲げ疲労試験開始から破断までの試験片外周上の実応力分布の変化を観察し,疲労過程における疲労損傷と圧縮残留応力の関係を検討した. 本年度の成果は,以下のとおりである. (1)ショットピーニング処理で導入された圧縮残留応力は疲労試験開始後直後(破断寿命の10%程度の繰返回数までに)に約30-40%程度減衰する.これは両振り疲労試験の圧縮負荷過程で圧縮の降伏が発生し,応力再配分が起こった結果であることが明確になった. (2)試験片表面における平均実応力の挙動は応力振幅に依存し,応力振幅が大きい場合は平均実応力は破断するまで漸減する.一方,低応力振幅の場合,平均実応力は破断に到るまでさほど変化しないことが確認できた. (3)試験片外周上の実応力分布を破断まで測定した結果,巨視的なき裂が発生するまでは実応力分布は一定で分布形状に変化は見られない.しかし巨視的なき裂が発生すると,き裂発生位置の実応力は大きく圧縮応力へ変化し,実応力分布はき裂発生位置を中心としてV字の形状を示した.そしてこの表面き裂の長さがX線照射面積の幅と同程度以上の寸法になると,き裂発生位置の実応力は残留応力値と一致することが判った. (4)試験片外周上の残留応力分布は繰返回数が増加してもほぼ一定であり,き裂が発生しても,その位置の残留応力も全く変化しないことが明らかとなった. 以上のことから疲労過程における残留応力の変化を観察しても疲労損傷の評価は困難であるが,疲労過程における実応力分布変化を検出すれば損傷評価が行えるとの結論を得た.
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