研究概要 |
本研究室ではこれまで,酸応力環境下におけるGFRP織物積層板のき裂進展挙動および下限界特性の解明に取り組んできた.その結果,Cガラス系のFRPは,Eガラス系に比べ,耐食性に優れることが確認され,Eガラス系は酸拡散によるガラス繊維の腐食により,Cガラス系は水拡散による繊維荷重分担率の増加もしくは界面強度の低下によりき裂進展が促進されていることが明らかになった.そこで本年度は,巨視的視点からの考察を行ってきた従来の積層板に加え,単繊維モデル試験を導入することにより,微視的視点からの破壊機構解明を試みた. 積層板を用いた実験からは,ガラス繊維の劣化に加え,繊維/樹脂界面の劣化が重要な因子であることが確認された.酸溶液中にGFRPを浸漬させると,時間経過と共に,酸・水の影響で,ガラス繊維および繊維/樹脂界面の劣化が進行する.繊維の劣化は,き裂進展抵抗の促進因子であるのに対し,界面の劣化はFRP全体のじん性が向上するため,き裂進展抵抗の抑制因子であると考えられる.この促進因子と抑制因子の2つが均衡することにより,下限界応力拡大係数が決定され,短期浸漬(1週間程度)の実験で得られる下限界値が,長期浸漬(1ヶ月程度)の結果に対しても有効であるとの結論を得た. 一方,単繊維モデル試験片による,フラグメンテーション試験を実施した.負荷応力の変化により試験片内部への拡散量が変化したことから,高分子材料中の拡散現象の負荷応力依存性を示すとともに,水・硫酸中で結果に大きな差異が観られなかったことから,酸に対する水の拡散先行性を確認した.以上より,単繊維モデル試験片を用いた,拡散が各構成基材(繊維・樹脂・界面)に与える影響を調査することにより,低応力拡大係数域における微視的視点からき裂進展挙動を考えること有効性を示した.
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